mirage of story
「今、俺たちが居るのは南側の人間が住む区域だから安心していいはずだよ」
カイムはそんな笑顔を向けて、言葉を続ける。
魔族。その言葉に敏感になっているだろうシエラを気遣って彼女を安心させようという、そんなカイムの心が何処か見て取れる。
確かにカイムの穏やかなその笑みは何かホッとするものがあって、シエラの表情はスッと和らいだ。
「.....うん。
何か凄いね。カイムは私なんかより、ずっと色々なこと知ってて。私、カイムと一緒に居ていつもそう思う。
駄目だね。ちゃんと勉強しなくちゃね」
「そうでもないよ。
俺の知ってることっていうのは、昔読んだ本からの知識で実際のことは何も知らないんだ。
俺なんかよりもずっと、シエラの方が色んな意味でこの世界のことを知ってるよ。
俺なんかの持ってる知識より、そっちの方がずっと価値がある」
「そ、そうかな?」
「あぁ、そうさ!」
またカイムが笑った。
シエラも笑った。
二人の間に穏やかで温かい空気が流れる。
あぁ、とても心地が良い。
心の中がフッと燈が灯ったように、温かい。
人肌のような、気持ち落ち着く温もりが今までの旅で荒み冷えた心を溶かして、溶けた心がじんわりと染み渡る。