mirage of story
二人靴音を響かせるこの落ち着いたクラシックな街の雰囲気とも重なって、此処だけ時がゆっくりと流れているような感覚に二人は襲われた。
「さぁ、シエラ?
何処か行きたい所はある?せっかくだから、欲しいもの買いたいものもあればこの機会に買っておこう」
流れる温かな空間。
カイムは穏やかな笑みのまま、この前に進める足の行く先を決めるべくシエラに問う。
「えっとねぇ、じゃあ......」
その問いに、眉をハの字に下げて少し考えながら答えるシエラ。
だがその答える声を、遮るものがあった。
―――グウゥ....キュルルル。
「......」
「......」
この雰囲気に不釣り合いな奇怪な音が、クラシカルな街道に響き渡る。
敷き詰められた煉瓦の一つ一つに、その音は僅かな振動を与えて消えていく。
幸い擦れ違う人は居なかったので、その奇怪な音を聞いたのはカイムとシエラ二人だけだった。
「.......じゃあ、まず何か食べに行こうか」
「う、うん」
自分のすぐ傍の音の根源。隣の仲間の姿に顔を向けかけるカイム。
だがそんなカイムの動きは途中でピタリと止まり、暫らくの沈黙の末に口を開く。
何の音かを知ってしまったカイムの気遣いだろうが、こういう時は逆に言ってくれた方が笑って誤魔化せたりするものだ。
だが、鈍感なカイムがそんなことに気が付くわけもない。