mirage of story
そのアトラスの街から、ジェイド達は人間側の砂漠を越えて、高く聳える山の裾を周り時間を掛けてこの街へとやってきた。
途中小さな村や通りすがる商人達から、必要な物を買い食糧や水に困ることはほとんど無かった。
敵であるライル達も、あれから追い掛けては来なかったし、ゆっくりと時間を掛けて来たおかげでアトラスの戦いで傷を負ったカイムの身体も随分と良くなった。
この街に来るまでに時間は掛かってしまったが、彼等にとってはそれで丁度良かったのかもしれない。
―――――ガチャッ。
本に埋もれる部屋の中。
その中央付近に置かれたソファーに腰掛け、前に置かれた机の上に頬杖をつき、懐かしさやら何やらで思考を交錯させていたジェイドの耳に後ろで扉の開く音が耳に入った。
その音にハッと我に返ったようにジェイドは一瞬身を震わせた。
だがそれはほんの一瞬で音のした扉に背を向け、机の上に頬杖をついたままフッと口元に笑みを浮かべる。
扉が開いた訳。
つまり誰が入ってきたか、それがジェイドには見なくても分かったからだった。
「ったく、いつまで客人を待たせるつもりだ?
.......セシル」
そしてジェイドは振り返りもせず、そのままの状態で扉から入ってきた、その人の名を呼ぶ。