mirage of story
「.............ジェイド。
貴方、本当にジェイドなのですね?」
背を向けたまま、笑いを含んだような声で言うジェイド。
その声に扉から入ってきた人。
つまりこの部屋の主であり、扉の前で立ち尽くす碧眼で淡い金色の長く毛先に少しウェーブが掛かった髪の美しい女性セシルは暫らく無言でソファーに座るジェイドを見つめ、それから口をそう開いた。
その声は驚きか戸惑いか、微かに震えている。
「俺がジェイド以外、誰に見えるってんだい?」
そんな声にジェイドは口元に浮かべていた笑みをより一層濃くして、フフッと笑い声を溢す。
ッ。
そして腰を掛けていたソファーからゆっくりとした動きで立ち上がり、そして何秒かの間を置いて後ろを振り返る。
ジェイドの綺麗に一つ括られた流れるような銀髪が、振り返るその反動でフワリと宙を舞う。
そして美しく舞ったその髪は、一瞬の間に元のように下へと流れた。
「......よう、久しぶりだな。セシル」
本が密集する部屋の中で、はっきりとしたジェイドの声が響く。
その声は辺りを埋め尽くす本達に吸収され消えていくが、その前に綺麗な碧眼を見開いてジェイドを見据える彼女の鼓膜をしっかりと震わせた。