mirage of story
それを知っての、この行動。
確信犯のジェイドは、いつもの調子で目の前に居る彼女を落とそうとしているわけ。
まったく、女の敵である。
彼の整った顔を、息がかかる程こんなに間近に。
たいていの女性は、この行動にドキッと来るだろう。
そしてまんまと、彼に落ちてしまうわけなのだけれど。
だけれど、今回はやはりいつもと違っていた。
「......?
私の顔に、何か付いているのですか?」
ジェイドのご自慢悩殺攻撃を前に、不思議そうに首を傾げて惚けたような声でセシルは言った。
しかも動揺を隠してわざと惚けているわけではなさそうで、純粋に惚けている様子。
少なくとも、ドキッとは微塵も感じていないような眼差しでセシルはジェイドの目を見つめている。
その姿はあまりに無防備で。
あまりに無垢で。
逆に自分から迫り、且つこんな状況に慣れているはずのジェイドの方が動揺してしまって、ジェイドは自分の顔が熱くなるのを感じて咄嗟に彼女から飛び離れた。
「どうかなさったのですか?」
急に近づいてきたかと思えば、今度は飛び離れる。
そんなジェイドの行動に、セシルはより深く首を傾げる。
「い....いや、何でもねぇさ」
「でも顔が赤いです。
大丈夫ですか?熱でもあるのでしょうか?」
「ッ!」