mirage of story
彼女とこの場所でこっそりと会って、他愛ない会話や互いに好きな本の話をする。
ジェイドとセシルは、サボりの"同胞"としての関係でそれから毎日のように二人で会うようになった。
会う場所は始めは、二人出会ったこの図書館の閲覧室だった。
だが、そこではやはり人の目がある。
"サボり"である二人には、あまりよろしくない環境であって、そのことを察してかセシルはジェイドをこの図書館の中にある自らの部屋に招くようになった。
その時から、二人会う場所は決まってこの部屋になったのだ。
「.......相変わらず、すげぇ部屋だな」
そんなもう今では遠い昔のようにすら思える日々を懐かしむように思い出しながら、ジェイドは先程果たした久々の再会から幾らか落ち着いて自分の隣のソファーに座るセシルを見て言った。
ソファーの上にちょこんっと座る彼女は先程とは打って変わって落ち着いた様子になって、膝の上にフワリと両手を置いて涙で少しだけ腫れた瞳でジェイドを見ている。
「えぇ、だって最後に貴方と会って以来何も手を付けてはいませんから。
いつ貴方がまた此処へ来てくれてもいいように、そのままにしておきたかったのです」
部屋の中をグルリと見回して、呆れたように笑いを含んだ声で言うジェイド。
そんなジェイドの瞳の紅を自分の瞳に釘付け、フワリと柔らかな笑みを浮かべながらセシルは答えた。