mirage of story
「この世界に存在しない力って――――」
「もちろん、まるっきり無いなんて言ってるんじゃないの。
ただこの世界に今ある力とは同じ力が、違う呼び名で呼ばれてるのかもって。
ほら、聖術って言われている力があったでしょ?
聖術っていうものも私はまだあまりよく知らないんだけど、聖術と神術って凄く似ているものだと思うんだ。
私の母さんも人間だった。
だから人間の術の聖術が使えたって、おかしくはないわ。もちろん、人間の私が使えたのも」
頭の中で、魔族の手に脅かされて身を寄せ合うようにする人々の姿とボロボロの廃墟が蘇る。
今ではもう存在しない街。
そして.....今ではもう存在しない大切な人の面影も頭の中に過る。
冷たくなった彼女の、ネビアという一人の女性の姿が嫌なくらい鮮明に浮かび上がった。
聖術。
それは魔族が持つ魔術と対なる、人間が生み出した力。
使う者は今となっては、数える程に少ない。
だが、確かに存在する人間の力。
世間からももう忘れ去られかけている力。
だからシエラ達もその存在を知らずに、彼等に会って初めて知った。
もちろん詳しくどのような力なのかは知らないし、目にした.....というか身体で感じたその力もほんの一部。
全てを知り得たはずはない。
だが聖術と、神術とエルザが呼んでいたその力。
どちらもシエラにとってはあやふやなものだったが、その二つの力の本質が凄く似ているものなのだと、彼女は感じていた。