mirage of story
「何かおすすめの飲み物、二つお願いします」
そうカイムが注文をした。
すると店の人はテーブルの上に既に置かれていた伝票を手に取り、慣れたように何かを書き加える。
そしてその伝票を再びテーブルの上に戻して、カイムとシエラに軽く会釈をして店の奥へと消えていった。
店の人が去って、カイムはまたシエラへと視線を戻した。
その顔にはまだ微笑みがあり、そんなカイムを前にまだ何も言えないままのシエラが居る。
二人の間には驚くほど、穏やかに時が流れていた。
「お待たせ致しました」
どのくらいそんな時間が流れたのだろうか。
対して長くはないはずの時間を、まるで時が止まっていたかのように長く感じて過ごしていたシエラの前に、先程店の奥に消えた店員が二つのカップを持って戻ってきた。
――――コトンッ。
そしてシエラとカイム、二人の間にカップが一つずつ置かれる。
置かれたカップからは湯気が立ちこめる。
その湯気の温かさが空気と交ざり合い上へと上り、シエラの肌を湿らせる。
そして湯気の湿り気と共に、鼻をくすぐるフワリとした芳香が二人の間に漂った。
カップをテーブルに置き終わり、また去っていく店員。
その姿をシエラは一瞥して、カップの中を覗き込む。