mirage of story
カップの中。
湯気の先に見えるのは、緑色と茶色を混ぜたようなほんの少し濁りのある液体。
何かのお茶だろうか。
そう思い、改めて匂いを嗅いでみる。
すると花のような甘く芳しい匂いがした。
「何だろうな、これ」
カイムもカップを持ち上げて、その中を不思議そうに見つめる。
頼んだ張本人も、どうやらこれが何かは分かっていないようだった。
カイムは暫らく興味深気に見つめて、それから恐る恐るといった様子でカップに口を付けた。
そしてゴクリッと、一口飲む。
「......うん、美味しい」
味わうようにその一口を飲み込んで呟くカイムに、シエラも釣られてカップに口を付ける。
先程の会話で受けた衝撃はまだ治まりきってはいないが、今はこれでも飲んで気分を落ち着けよう。
そう思いながら、シエラはカップの中身を一口だけ口に含んだ。
(.....美味しい)
やはり中身はお茶のようだった。
味としては感じないが、湯気から香った芳香は口に含むと更にその存在を現し、花のような甘い風味が口の中に広がった。
味はすっきりとしていて、飲み込み喉を通った後から少しだけスーッとした。
シエラは続けて、口に含む。
見ればカイムも気に入ったようで、一度もカップをテーブルに置かずに飲み干していた。