mirage of story
小走りで隣へとやってきたシエラを、カイムは少しだけ身体を傾け振り返る。
シエラより背の高いカイムはシエラを見下ろし、シエラは見上げた。
「.......じゃあもう少し、街の中を散策してみようか」
「そうだね」
店を出て通りへと出た二人は、ゆっくりとした足取りで歩く。
行くあては無いが、初めての街をぶらり散策するのも悪くはない。
シエラは隣を行くカイムに付いていく。
自分に合わせてゆっくりと歩いてくれるカイムに遅れないように。
コツンッコツンッ。
煉瓦の街道に二人の靴音が響いては消える。
両側から迫る街並に、伸びる二つの影。
煉瓦の道の上に描かれた二つの黒い影は、店に入る前の先程よりも長く伸びているような気がする。
それに気が付いてシエラは、ふと空を見上げた。
すると空には、うっすらと朱色の帯がかかって青空が金色の空へと変わり始めていた。
思ったよりも時間が経っていたようだ。
もうすぐ夕暮れだ。
(もうすぐ夜か.....)
歩きながら暮れていく空を見上げて、シエラは漠然とそう思った。
夜。それは静寂。
そして暗くて、怖いもの。
シエラの中にはそんなイメージがある。
寒くて怖くて、どこまでもどこまでも続く闇。
いつまで経っても抜けられない、果てしない闇。
シエラは夜が嫌いなわけではないが、時々無性に怖くなることがあった。