mirage of story
それは誰も知らぬことだが、その真実は彼の王が指輪の契約者であったから。
彼の王の二代後の王が地下で埃を被ったその指輪を手にする前。
その前に彼は指輪を見付け、そして契約者となっていたのだ。
契約者。
とは言っても、彼は二度目の崩壊を導いた哀れな人のようになることを恐れ、生涯その力は使わなかったが。
彼は確かに、彼の生きた時代に水竜の指輪と出逢い契約を果たしていた。
彼は水竜から語られる世界の真実を知り、人という存在を大きく恥じた。
自分達が犯してきた古からの罪を、何も知らずにのうのうと生きている人に愚かさを感じた。
このままではいけない。
力こそ使わず、契約者と誰にも知られずに生涯を終えることとなった彼だが、彼なりに何かを伝えるべく行動を起こした。
その結果が、この新世界白書という一冊の書である。
この書に水竜から語られる真実を書き記すことにより、忘れ去られた歴史と人が為すべき世界に対する報いを後世に伝えた。
そしてこれを正式な歴史とすべく、彼は周りの反対を押し切ってこれを正式な歴史書として認めさせたのだ。
その成果があったと言えるかは怪しいが、その彼の綴った竜から語れし歴史は今のこの時代に伝わっている。
そしてそれと共に竜の存在を人々は認め、また竜の宿る竜刻の指輪。
そして地の底に封印されし閻竜――――今は名を変えて"創黒の竜"の存在を人々に受け継いだ今に至るのである。