mirage of story









「.........やはりジス殿の元に行く前に、始末しておくか。
悪い芽は早く摘み取ることに越したことはない」





そう囁くようにロキの口から漏れる。







「........うん...ん」



その言葉が聞こえたのか聞こえていないのか、今まで寝息を立てて動かなかったシエラが呻きながら寝返りを打つ。
そして暫くそのまま停止して、のっそりと掛けていた布団を被ったままにその身を起こした。


だがロキはそんな彼女に目を向けないまま何処かを見たまま微動だにしない。
ただ何処か一点を見たまま、彼女の動きを気配で見た。









「あ.....ロキさん、おはようございます」



のっそりとした動きで体を起こし、いかにも眠そうな瞳を服の手の裾で拭う彼女がロキの気配に気が付きハッとしたように見る。

だがまだ意識が完全に覚醒していないのか、その声は物凄く眠そうだった。
聞いている方が眠くなりそうな声で、律儀にペコリと頭を下げて朝の挨拶をする。








「..........よく眠られたようで何より。

旅路はまだ長い。
暫らくこのような環境が続く。申し訳ないが辛抱して頂きたい」




そんな彼女にロキは何を思うでもなく一瞥し、そう感情の籠もらない業務的な口調で挨拶は返さずに答える。



おはよう。

そんな一言くらい返してもいいとも思うが、シエラの中でのロキへの認識は口数の少ない人と固定されつつあったので、彼女はそのことを何も気に留めずにその場で大きく伸びをした。







 
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