mirage of story
ピチャンッ。
水際まで来てシエラはその場にしゃがみ込み暫く見つめる。
それから宝石のように煌めく美しい水に我慢出来なくなったように、恐る恐る手を静かに浸す。
冷たい。
痺れるような、冴え返るような冷たさが手の先から伝わる。
薄い皮膚から染み渡るように、じんわりと来る冷たい水の感覚が心地良い。
泉の水は澄み切っていて透明。
泉の底がレンズを通したようにグラリと揺れながら、くっきりと見える。
それでいて泉の中央の深い辺りは爽やかな青とコバルトブルーが混ざり合ったような、そんな色をしていてその色がまた見た者を魅了していた。
「冷たい―――でも、何だか気持ちが落ち着く」
浸した水の中で、シエラは手を開いたり閉じたりして水の感覚を楽しむ。
その度、水面には波紋が広がり泉全体を震わす。
小刻みな波紋がユラユラと揺れながら、やがて泉の対岸に辿り着いて打ち消えていく。
それが何だか楽しくて、シエラは何度かそれを続けた。
スッ....ピチャンッ。
暫く波紋を見つめ、それから浸した手で水を掬い上げてみる。
シエラの小さな手の平には、泉から切り取った澄んだ水の煌めき。
やがてそれは指の隙間から少しずつ流れ落ちて、泉へと戻っていく。
ほんの数秒で、掬い上げたシエラの手の中は空っぽになった。
空っぽの手の中には、まだ水の余韻が残っていた。
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