mirage of story









ガッ。
バケツの中の水が落ち着くのを待ち、それからもう一度今度は零れないように注意しながら胸の辺りまで上げた。














........カランッ。
カンッ。カッ。

――――ポチャンッ。



その拍子、バケツの縁が胸の辺りの何かに当たる。

軽い金属の音。
それから何回かバケツを掠るような音がして、最後に水に落ちる音がした。





何だろうと思い、下を見るシエラ。

だが持ち上げたバケツが邪魔になって下が見えない。
バケツの中には水以外何も入ってはいないから、落ちたのはその下の泉だろう。



見えるのは揺れるバケツの中の丸い水面だけ。












「あ......」


泉の中に落ちたはずの何かは見えないけれど、その代わりに胸の辺りの違和感にハッとして声を上げた。




違和感。
それは何かがある違和感ではなくて、あるはずのものがそこに無い違和感。

慣れた感覚。いつもあるはずの感覚。
それが、無い。











「......指輪が無い」



そう呟くと同時に、シャランッ音を立てて肩から滑り落ちる鎖。
これは指輪を通し首に掛けていたはずのもので、見るとそれが途中で切れている。

さっきバケツの縁に当たったのはこの鎖で、その拍子に脆くなっていた所が切れたようだ。




その鎖に通していたはずの指輪は無い。

つまり下へと落ちたのは、あの指輪のようだった。












「っ!」



ハッとしてシエラは持ち上げた水の入ったバケツを急いで地面へと置く。

零れた水が手にかかったが、気にしないでその場にまたしゃがみ込んで落ちたはずの指輪を探す。








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