mirage of story
「俺の、生まれた日?」
そう聞いて思わず聞き返す。
そう言われても、もちろん記憶も実感もない。
声は聞こえるのに、水竜の姿はどこにも見えない。
俺は空を見上げる。
自分の生まれた日が、こんな雨の日だったなんて知らなかった。
濡れない雨に手をかざして、そう思い染々と心湿らす。
――――ッ。
染々と見る空。
その視線の端、何かが動く気配を感じて意識を向ける。
在るのは、小高い丘。
そしてその頂に、揺れる一つの人影。
雨に打たれ、全身濡れているその人。
そうであるにも関わらず、それに気が付いていないようにその人は何処か空の一点を見て立ち尽くす。
若い男の人だった。
少し長めの黒い髪。
此処から見るその人は横を向いていて顔はよく見えなかったが、艶やかな黒が見るものを惹き付けている。
......彼は何か腕に抱えているようだった。
「―――あの人は?」
俺は姿は見えない水竜に訊ねる。
"あれは.........君の父親だ"
水竜は答えた。
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