mirage of story
「あれが......十八年前の、父さん?」
あの人が、俺の父親。
数年前、俺と母さんを置いて姿を消したあの父さん。
雨に濡れる漆黒の髪。
その隙間から覗く横顔を俺は凝視する。
"――――――そして今、彼の腕に抱かれているのが......生まれたばかりの、君だ"
自分の父だという若い男。
その腕にまるで壊れ物を抱くように優しく大事に抱え込むのは、生まれたばかりの赤子。
まだ目も開かぬような小さな命。
白い柔らかそうな布に包まれて、彼の腕で動かない。
多分、眠っているのだと思う。
あの小さな生まれたばかりの赤子が、自分?
いくら見返して見ても今の自分の面影もなくて、にわかには信じられない。
けれどあの男の人が水竜の言うように俺の父であるなら、あの赤子は紛れもなく自分だ。
色々と頭の中で考えた。
あれが本当に父さんであって赤子が自分であって、何故こんな酷い雨の中こんな所に居るのだろう。
生まれたばかりの赤子。
普通ならその赤子の生誕に祝福をして、家族水入らずでその幸福に浸ることだろうに。
どうしてこんな所で、あんな悲しそうに佇んでいるのだろう。
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