mirage of story










「あれが......十八年前の、父さん?」




あの人が、俺の父親。
数年前、俺と母さんを置いて姿を消したあの父さん。


雨に濡れる漆黒の髪。
その隙間から覗く横顔を俺は凝視する。
















"――――――そして今、彼の腕に抱かれているのが......生まれたばかりの、君だ"



自分の父だという若い男。
その腕にまるで壊れ物を抱くように優しく大事に抱え込むのは、生まれたばかりの赤子。




まだ目も開かぬような小さな命。
白い柔らかそうな布に包まれて、彼の腕で動かない。

多分、眠っているのだと思う。











あの小さな生まれたばかりの赤子が、自分?

いくら見返して見ても今の自分の面影もなくて、にわかには信じられない。
けれどあの男の人が水竜の言うように俺の父であるなら、あの赤子は紛れもなく自分だ。















色々と頭の中で考えた。

あれが本当に父さんであって赤子が自分であって、何故こんな酷い雨の中こんな所に居るのだろう。




生まれたばかりの赤子。
普通ならその赤子の生誕に祝福をして、家族水入らずでその幸福に浸ることだろうに。

どうしてこんな所で、あんな悲しそうに佇んでいるのだろう。









.
< 879 / 1,238 >

この作品をシェア

pagetop