mirage of story












『.............』



何か聞こえないような声で、何回か闇と会話するように父さんが呟いたのが分かった。





内容は耳に捉えることは出来ない。
だがその声は何故かとても必死で、縋るような求めるようなそんな感じがした。



数少ない父さんの記憶。顔すらまともに思い出し頭の中に描くことが出来ない、曖昧な記憶。
そんな中でも父さんは、いつも強かった。


だが今この目に映るそんな若き頃の父さんの姿は、とても弱々しい。
まるで父さんではないようだった。




























"―――――契約、成立だ"



何か呟いていた父さんの口が止まり、何処からともなく低く轟くような声が聞こえる。


それは父さんの声でも水竜の声でも、もちろん俺の声ではない。



姿は見えない、水竜以外の第三者の声。
.........猛烈に邪悪な闇を纏う低いその声は、父さんの会話のその相手の声。

闇の声。








――――ッ。
同時に嫌な生暖かい風が吹く。

その生暖かい風は、実際には此処に居ないはずの俺の頬を撫で、俺はその風に嫌悪感を抱く。
ハッと気付いた時には、反射的に風が撫でた頬を拭っていた。










.
< 884 / 1,238 >

この作品をシェア

pagetop