mirage of story
フッ―――。
空に浮かんでいた魔法陣が溶け込むように消えていく。
闇を避けるように左右に割れ退いていた雨雲が、闇を隠すように覆い被さる。
割れていた空が元通りの雨空に戻り、割れ目を覆った雲からまた雨が降り出して、父さんを濡らし始める。
『............う.....っ』
ドサリッ。
元通りになった空、降りしきる雨。濡れる身体。
父さんの身体が糸の切れた人形のように、ぐらりと揺れうなだれる。
呻き声、息を吸い込むように引く息遣い。
地にうなだれながら父さんは、手に抱くまだ生まれたばかりの赤子の俺を強く抱き締めた。
ッ。
そして抱き締めるその手が苦しかったのか、今までピクリとも動かなかった生まれたばかりの俺は空間を裂くような元気な声を上げた。
まるで生まれたばかりのような、赤子の産声が淀んだ鉛色の空に響き渡り、俺の鼓膜を震わせる。
『............カイム......』
うなだれた父さんが、初めて俺の名を口にする。
その声は小さい声。
なのにそれは実にはっきりと俺の耳届いて、俺はどうしようもなく泣きたくなった。
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