mirage of story
「父さん――――」
互いを呼ぶ、親子の声。
すぐそばに見えるのに、すぐそばに居るのに俺の声は父さんに届かない。
俺と父さんとを隔てるこの空間の差がもどかしくて、俺は目の前の父さんに手を伸ばした。
届かない。
そう心では判っていたけど、どうしても触れたくて。
その衝動が抑えられない。
案の定、父さんに触れようと伸ばした手は宙を切り掴んだのは虚しさだけ。
グラリ。
それと同時に周りに在った世界が降りしきる雨に染みるようにぼやけ歪んでいくのが分かった。
歪む風景。
地にうなだれる父さん。
全てが歪み飲み込まれ、唯一伸ばした自分の手だけがはっきりと見えた。
「..........」
歪み何もないまっさらな白の世界へ戻っていく周りを、ただ虚しさを手に見守るしかない。
雨も地も空も、そして父さんも完全に白の世界へと飲み込まれ、俺はまた真っ白な空間の中に独りきりになった。
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