mirage of story
"....................今君が見たのが、君がこの世界に生まれた日――――そして、世界の運命が大きく動いた日の出来事。
もしもこの日が無かったのなら、今君が生きている現実は全く別のものになっていただろう"
真っ白になった世界で、静寂を保った水竜の声がした。
凄く不思議な気分だった。
十八年前の自分の生まれた日の自分の知らない過去。
それを全てを見透かしているような水竜が語り、この目を通して十八年越しにこうして知るなんて。
ただ誰かから聞いて教えられるよりも、ずっと説得力がある。
だけどだからと言って、これが自分の過去であって水竜の語ることが俺の知らない過去にあった事実であるなんて、そんな実感が簡単に沸くはずもなくて俺はただただ放心していた。
"――――少年よ。
君の記憶の中での、父親との思い出はどこまである?
はっきりとした父親の像は君の中にどれだけ存在する?
........よく思い出してみよ"
放心状態の俺に、水竜は続けて問う。
父さんとの記憶?
そう言われて思い出せるのは、父さんが家を出て行く前までの記憶。
小さい頃に遊んでもらった。
忙しい仕事の合間に帰って来ては、よく色んな話をしてくれた。
よく母と俺と三人で笑った。
心地よい時間だった。仲の良い誰もが羨むような家族だった。
在るのは何の変哲もないどこにでもあるような思い出ばかりで、頭の中で繰り広げられるのは幸せな思い出ばかり。
なのに。
なのに一つも、はっきりとした父さんの姿がない。
ただぼんやりとした父さんの像しか、記憶の中に存在しないのだ。
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