mirage of story
『──────待って......行かないで』
そしてこの目の前に広がる空間があの日であることを決定付けるように、聞こえる声。
悲痛で弱々しくて、消えていまいそうな程に儚いその声は、此処が紛れもないあの日だと告げる何よりの証拠だった。
「あの日の、俺か」
呟いた瞬間、空間に現れるのは一人の小さな男の子。
ペタペタと地べたを踏みしめる、男の子の裸足の足からはじわじわと血が滲み出す。
見ているだけで痛々しい、何とも哀れな幼い頃の自分。
"..........こちらは君にも、見覚えがあるだろう"
あぁ。
見覚えがある。覚えている。
忘れるわけはない。
忘れられるわけはない。
この日のことも。
この日の想いも、そしてこの悲痛なこの声も。
間違いなくこれは自分の記憶と一致して、頭の中に蘇るものとぴったり一致した。
『僕を、置いていかないで』
ただ虚しく哀しく響く声。
ひしひしと伝わる、必死すぎる叫び。
『待って.....行かないで。
僕を、置いていかないで。
─────お父さん』
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