mirage of story










お父さん。
父さん。

幼い頃もそして今も、求めるものは同じ。










「父さん........」


幼い自分の声に重なるように、俺は求めるその名を呼ぶ。






フッ―――。
それと同時に、まるで声に誘われるように一つの長い黒い影が現れる。

それはあの時、幼い自分の目の前にあった姿。
あの時、追い掛け追い求め.....そして掴めなかった求める人の後ろ姿。











『─────お父さん.......行かないで.....』



父さんが現れたその瞬間、同時に幼い頃の自分が地面に倒れ込むのが見えた。

俺はその光景に思わず二つのその影の元へと駆け寄る。



大地を蹴って駆け寄る。
足に大地の感触はあるが、大地には足跡は残らず土埃も舞わなかった。



父さん。倒れ込む幼い自分に俺。

幼い俺は、疲れてしまったのか眠ってしまったように動かなくなった。
父さんはそんな幼い俺にゆっくりと歩み寄り、今居る俺はそれを間近で見守る。














『――――――すまないな......カイム』



そう言う父さん。

この場面は俺の記憶にはない。
だが確か前にも見たことがある。いつか見た夢の中でのことではあったが。







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