mirage of story
「っ!」
知らない。
そんなこと知らなかった。
自分の求め焦がれてきた父親が、憎むべきあのロアルであったなんて。
知らなかったんだ。
だがそう思い自分に言い聞かせる俺の気持ちとは裏腹に、水竜の言葉に俺の心は激しく動揺する。
まるで隠していた嘘を親に見透かされ暴かれてしまった子供のような、焦り。
悪いことをしてしまったのに、それから目を背けている時のような心の靄と罪悪感。
"君は知っていたはずだ。理解していたはずだ。
それを、今認める時だ。
たとえ認めたとしても、君が変わらなければ何も変わることはない。
事実を受け止め、君は君のままでいればいい"
そうだ。
......俺は、知っていた。
シエラを迎えに行ったあの日、燃えるシエラの村の中で剣を突き付けられたシエラと突き付けるライルの、その背後に見たあの漆黒を纏ったロアルの姿。
人間達が寄り添い暮らしていた崩壊間近のランディスの街。
あの夜、黒い風が全てを奪っていくその前に壁の裏に身を潜めて見たあのロアルの姿。
どちらの時にも、憎さと共に沸き上がる懐かしさがあった。
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