mirage of story
「はぁ....はぁ......」
その光景に思わず唖然とする。
だが、口から零れるのは苦しい吐息ばかりで嘆きの言葉すら出ない。
数時間、戦う事以外何も考えずに戦った。
その疲労はもう計り知れなくて、限界などはもうとっくに通り越していた。
剣を握る手は疎か全身がその感覚を麻痺し、身体を動かしているのは感情と気力。
身体にはいつ付けられたかも分からない切り傷が幾つもあって、服はその傷から滲み出る血と返り血で、元の色が完全に分からない。
血という水分を含んだ服は何かじっとりと重く、今すぐ脱ぎ捨ててしまいたい衝動に駆られた。
「.........はぁ......此処が最前線ってわけか」
あれだけあった人の影が、今はこんなに少ない。
見回せば目の前には大きく遠くまで続く湖があって、此処が人間の国との境であることをライルは把握した。
湖には船が浮かべられ、相手はこの船に乗り込んでこちらに攻め込んできたのだろう。
まぁ、今は人気はないが。
「とりあえず―――此処は制したようだ」
周りを見渡し呟く。
敵は、やはり殆どは居ない。居るのは背を向け敗走する兵士達だけ。
勝った。
そう思ったが、ふと気が付く。
........敵も居なければ、味方も殆ど居なかった。
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