【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜
「ありがとうございましたっ……」
私の分も持たせてしまったから……。
私の言葉に、和泉くんは頭を少しだけ下げてくれた。
言葉はなくとも返事をもらえたことに、喜んでしまう。
……一応、聞いておこうかな……。
「あ、の……大丈夫、ですか?」
「……は?」
何が?とでも言いたそうな和泉くんの声に、私は言葉を続ける。
「体調、悪そうに見えて……」
ずっと、気になっていた。
もしどこか悪いなら、治るまで安静にした方がーー。
私の質問に、今まで頑なにこっちを見なかった和泉くんが振り返った。
「……っ」
その表情が、何を思っているのかわからない。
眉を顰め、唇を固く閉ざし……とにかくひとつだけわかるのは、何かに対して驚いているということだけ。