真実(まこと)の愛

「まぁ、普通の人ならね。でも、恭介は要領がいいし、キャパの方の容量も人並外れてるから」

礼子はそう言って、甘くて芳醇な風味のドイツワインを口に含む。

杉山からドイツ産の貴腐ワインが入ったとLINEが来たため、たまたま身体の空いた今夜に、一人でこの店を訪れたのだった。

残念ながら「貴腐ワインのロマネ・コンティ」と称されるエゴン・ミューラーではないが、一応ドイツ屈指の名産地・シャルツホフベルガーだ。
もちろん、トロッケンベーレンアウスレーゼである。

気候の関係で甘いワインが育ちにくい()の地では、糖度によって格付けされている。
甘ければ甘いほど上位になるのだ。
だから、デザートワインと言われるほど甘い甘い貴腐ワインが、最高レベルの「トロッケンベーレンアウスレーゼ」に格付けされる。

彼女が貴腐ワインを好むのは、ジュエリーブランド「Jubilee」のアイコンとして雑誌などでモデルも務める「久城 礼子」にとって唯一自身に許した「甘味処」であるからだ。

雑誌の企画や接待など以外では、いわゆる「スイーツ」と呼ばれるものを彼女はいっさい口にすることはない。

「それに、やっと日本でも総合診療科の意義が認められてきたんですもの。恭介が張り切るのも無理ないわ。そのために、日本での『将来』を投げ出して渡英したのよ。
……あなた、恭介の実家のこと、ご存知かしら?」

麻琴は、こくりと肯く。

「だったら、恭介が周囲からどれだけ家業を継ぐことを求められていたか知ってるわよね?
でも……恭介が投げ出したのは、実家の跡を継ぐことだけじゃないの。母校の大学での学者としての出世も、附属病院での責任あるポストも、なにもかも投げ出して渡英したのよ」

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