俺様外科医と偽装結婚いたします
「ほら。早く着替えてよ」
「……そうだな。そうしよう」
焚きつけると、意外にもあっさり環さんは了承し、並んでいるスーツへと向かった。
そのことに少しばかり拍子抜けしたものの、私はすぐに口元に笑みを取り戻す。
今度は私の番だ。
自分がされたように「次!」を連呼してやる……と思ったのだけれど、甘かった。
「どう?」
「……あー……まぁ、良いんじゃないですかー?」
ネイビーにブラック、それからグレー。ストライプ柄やチェック柄など柄ありだったとしても、彼は綺麗な着こなしでさらりと見せつけてくる。
すらりとした細身ではあるけれど、決して貧弱ではない。
胸板の厚み、足の長さ、顔の小ささ、そこに男性的な魅力もあわさり上品で……悔しいけれど、格好良い。
思惑が外れてしまい項垂れていると、環さんが歩み寄ってきて、再び私に手を差し出してきた。
「……な、何?」
「俺だけ似合っていても意味がない」
どういうことかと首を傾げつつも、彼の要求通りにもう一度手を重ね置き、私は椅子から立ち上がる。
すると、環さんのもう片方の手が私の腰へと回され、そのままぐいと引き寄せられた。