俺様外科医と偽装結婚いたします
突然縮められた距離に驚き、同時に顔が熱くなる。
「ちょっ、ちょっと!」
慌てて離れようとしたけれど、彼の手がそれを許さず、互いの身体はさらに密着する。
まるでダンスでも踊っているかのような体勢のまま、環さんが店員さんへと話しかけた。
「俺たち、お似合いですか?」
その質問にあてられたように、店員さんは微かに頬を赤らめて、こくりと頷き返してきた。
「えぇとっても! 似合いのおふたりです!」
似合いのふたり。営業トークだと分かっていても、つい胸がドキドキしてしまう。
落ち着かない私とは逆に、環さんはその返答に満足気な笑みを浮かべる。
「では、これも一緒にお願いします」
その一言で、店員さんたちの見事に揃った「ありがとうございます!」という声が、室内に大きく響き渡った。
+ + +
買い物を終え車で自宅へと送ってもらう帰り道、私はいまだ冷めやらぬ頬の熱を感じながらぼんやりと窓の向こうを見つめていた。
ずっと心を占めているのは、先ほどの環さんとのやり取り。
重なり合った彼の手の大きさや温もり。
至近距離で見た肌は思わず触れてみたくなるくらいに滑らかそうで、私の身体を引き寄せる彼の力は意外にも紳士的だった。