俺様外科医と偽装結婚いたします
そして成木社長の斜め後ろにいた三十代前半の男性も、よく知っている。社長の息子の成木宏大(こうだい)。
彼は人懐っこい笑みを環さんへと向けていたけれど、隣にいる私に気がついた瞬間、顔色を変えた。
「えっ? 咲良?」
表情だけでなく声色までをも驚きで強張らせている。
正直、会いたくなかった。もう絶対に関わらないと思っていた人が目の前にいる。
彼との出来事を思い出すと苛立ちが生まれ、言葉すら交わしたくなくなる。
けれど環さんも社長もびっくりした様子で私と彼を交互に見ているため、このまま無視するわけにもいかず、私はわずかに頭を下げた。
「……お久しぶりです」
言葉を返した途端、成木さんは明るさを取り戻す。おどけた口調で続けた。
「すごくびっくりしたよ。まさかこんなところで咲良に会えるなんて。……招待を受けるほど、院長といったいどんな繋がりが?」
問いかけつつ小馬鹿にするような含み笑いをされる。そして成木さんから気安く肩を触れられて、自然と身体が竦んだ。
嫌悪感でいっぱいになりそれには答えられずにいると、社長が口を開く。
「宏大、知りあいなのか? いったいどこのお嬢さんだね?」