俺様外科医と偽装結婚いたします

私を見つめながら見覚えがないと首を傾げる社長に対し、成木さんがニヤリと笑う。

ここで、……環さんのいる前で、自分たちの面白みのない昔話を語り出さないで欲しい。

ひやひやしながら何事もなくこの場をやり過ごせますようにと願っていると、問いかけに対し曖昧に言葉を濁した息子の背中を社長がポンと叩いた。


「そうだった。まずは院長にご挨拶をせねばな。環くん、ひとまず失礼させていただきますよ」

「えぇ。今宵はどうか楽しんでいってください」


環さんは恭しく頭を下げたあと、並んで去っていく成木親子に冷めた目を向けた。


「俺も驚いてる。咲良と成木さんの息子が知り合いだってことに」


ぽつりとこぼされた感想に私は苦笑いを浮かべた。


「私ね、実は昔、成木建設で働いていたことがあって、それで……」


それ以上は言葉にできなかった。環さんと目が合ったらきゅっと胸が苦しくなり、言いたくないと強く思ってしまったから。

違う。言いたくないじゃなくて、知られたくない。浅はかな過去の自分を知ったら、環さんに幻滅されてしまいそう。

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