俺様外科医と偽装結婚いたします
瞳を揺らしながらそっと彼から目をそらし数秒後、彼が小さくため息をついたのが聞こえて、またちくりと胸が痛んだ。
東京湾内をゆっくりと周遊し、航路も終盤へと差し掛かったころ、私は環さんと三階デッキからきらびやかな夜景を眺めていた。
宝石をちりばめたかのような都会の夜景も、ゆっくりと流れていく時間も、わたしには贅沢すぎて胸がいっぱいになる。
まさに今この瞬間を夢のような時間というのだろうと考えていると、環さんが烏龍茶入りのグラスを持つ手を手すりに乗せ、僅かに前へ体重を傾けながら私に顔を向けた。
「疲れたよな?」
探るように顔を覗き込まれた。とっさに「平気」と言いかけたけど、素直にコクリと頷く。
慣れない場で疲れていないと言ったら嘘になる。きっと私の表情からそれを環さんも見抜くだろうし、そもそも気を使う必要はないかと考え直したからだ。
「お疲れさま」
小さな笑みと共にかけられた彼からの労いの言葉に、私もつられて微笑み返し「環さんも、お疲れさまです」と続ける。
笑い合って数秒後、環さんが迷うように瞳を揺らした。
「さっきのことだけど……」