俺様外科医と偽装結婚いたします
言葉が続かなかったため、どうしたのかと目で訴えかける。すると彼はまるで我にかえったかのような顔で私を見つめ返したのち、ゆるりと首を横に振った。
「いや、なんでもない。気にするな」
きっぱりと告げる声。おまけに自嘲するかのような笑みまで添えられ、思わず眉根が寄っていく。
その態度から、たった今自分たちの間に線を引かれたことをはっきりと感じ取り……込み上げてきた寂しさで胸が苦しくなっていく。
「まだ少し時間はある。飲み物のお代わりは?」
環さんは私の手の中にあるグラスへと目を向けたのち、あたりに視線を走らせる。
ちょうど通路に出てきたウェイターに呼びかけようと片手をあげた環さんの眼前へ、私は一歩進み出た。
私の突然の行動に驚き目を大きくさせた彼と見つめ合う。
「私は気になります。環さんが今何を考えているか、知りたくて知りたくてたまりません」
一気に気持ちが溢れ出す。言ったらどうなるか怖くもあるのに、止められない。私は環さんへ思いの丈をぶつける。
「船から下りれば終わりなんだから当然だって頭では分かっているのに、環さんに距離を置かれるとすごく寂しくて切ないです。夢みたいなこの時間がいつまでも続けばいいのにって、願わずにはいられない」