俺様外科医と偽装結婚いたします
「ほんと咲良は好きだよな、権力を持ってる男が」
言いながら、成木さんが環さんへ意味ありげな視線をちらりと向ける。
彼の言わんとすることが予想できて、怖くてたまらなくなっていく。
「恋人と聞きましたけど、実際は違いますよね。繋ぎですか? それなら理解できます。確かに咲良みたいな女は暇つぶしにちょうどいい」
悪魔の囁きに目の前が真っ暗になる。怯えと苛立ちで胸が苦しくなっていく。
やめて。それ以上、環さんに何も言わないで。彼と私の間に土足で踏み込まないで。
「あいにくだが、あなたと違って俺にはつぶせる暇がない」
響いた凛とした声で私は我に返った。環さんはこちらへ振り返ると同時に、私の肩に手を回す。強い力で彼の元にぐっと引き寄せられた。
「恋人というのは聞き間違いではないですよ。咲良は俺の婚約者です。だから彼女を貶めるような発言はやめてもらいたい!」
環さんの言葉に心が反応する。強く鼓動が刻み始め、グラスを持つ手がわずかに震えた。
呆気にとられていた成木さんが突然笑い出し、環さんの肩に気安く触れた。
「やだな。聖人ぶったセリフを吐いたところで、実際繋ぎでしょ? 咲良と結婚する気もないくせに」