俺様外科医と偽装結婚いたします
あの頃の苦しさが心の中に蘇ってきて、環さんの腕を掴んでいた手にきゅっと力を込めた。
「成木さんのことよりも仲が良かった友人との関係を壊してしまったことが悲しかった。成木さんと彼女の婚約が公になってからは一層こじれちゃって、彼女だけじゃなくて職場のみんなの私を見る目が冷たくなっていって、その辛さに耐えきれなくなって逃げたの」
すごい人が父親だったとしても元同僚の友人は気取った所などなくて、笑顔が素敵で話しやすくて一緒にいると心が休まる女性だった。
仕事終わりに食事をしたり飲みに行ったりを頻繁にしていたし、休日だって一緒にショッピングを楽しんだりした。
そんな彼女との関係に修復できないほどの亀裂が入ってしまったことが、私にとってなによりも耐え難いことだったんだ。
知らなかったとはいえ彼女を傷つけてしまった事実は消せない。これからもずっと私の心の中に棘となって残り続けるのだと思う。
環さんの様子を盗み見たら不安で胸が苦しくなった。私は歩みを止め、環さんの腕をそっと引っ張る。
「誤解していたら嫌だから言っておくけど、本当に私は成木さんと深い関係になんてなってないから。今話したことがすべてだよ」