俺様外科医と偽装結婚いたします

切実に訴えかけると、環さんが目を大きくさせてかすかに笑った。

俺にはそんな弁明はいらないと言われた気持ちになり、急に気恥ずかしくなる。


「これは私の名誉のための補足だから。ちゃんと信じてほしい」

「わかってる。補足がなくたって信じるよ」


ほっと肩の力が抜けた。友人は私が成木さんを誘惑して男女の関係を持ったと思い込んでいた。

どれほど違うと主張しても聞く耳を持ってくれず、結局最後までその誤解を解くことができなかったのだ。

昨日の成木さんの言い方だと同じように誤解されてしまってもおかしくないのに、環さんは私の言葉をちゃんと受け止めてくれた。

それが本当に嬉しくて、涙まで込み上げてくる。


「よかった」


心の底からそう呟いた時、彼の腕を掴んでいた手を環さんに掴み取られた。しっかりと繋がった手を彼に引かれて私の足がゆっくり前進する。

心が彼の温かさで満ちていく。深く呼吸をしてから話を続けた。


「退社して喫茶店を手伝うようになって、男関係が原因で辞めたってことはみんなうすうす気づいてたから腫れ物を扱うみたいに私に接してきたけど、お祖母ちゃんだけは違った」


昼下がりの店内。ちょうど客足が途切れた私とお祖母ちゃんのふたりだけの空間で、真面目な顔して言われた言葉を思い出す。

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