俺様外科医と偽装結婚いたします
「環さんが!?」
クールだなとは思っていたけれど、彼に対してそんなイメージを抱いたことはなかったため開いた口が塞がらない。
「そんなに驚くなよ」
「びっくりだよ。どうして? ……もしかして勉強漬けの毎日に嫌気がさして、鬱憤が溜まっていたとか?」
医者になるような人だ。きっとこれまでに私には想像もつかないくらいの努力を重ねてきたはずで、エリートゆえの悩みがあったのかもしれない。
返答が聞きたくてじっと環さんを見つめていると、やや間を置いてから彼がゆるりと首を横に振った。
「いや。そうじゃない。実は俺、小学生の時に両親を交通事故で亡くしてるんだ」
あまりにも静かに紡がれた彼の昔話に、私は言葉を失う。完全に足が止まった。
「父さんが祖父さんの病院を継ぐことになってたのにその一ヶ月前に……。どうしようもないくらい辛くて悲しくて、虚しかった。自分だけ助かってしまったことを責める毎日だった」
環さんの言葉に強く心が揺さぶられる。考えるよりも先に言葉の裏側にある苦しみが伝わってきて涙で視界に滲み出す。