俺様外科医と偽装結婚いたします
「俺は一人ぼっちだって孤独に感じてたけど、痣や傷跡でぼろぼろになって家に帰ったある時、そうじゃなかったってやっと気づくことができた。祖父さんだけは俺がどんなに情けなくても見捨てたりしないんだなって。で、あぁそういえば今までもそうだったって、ずっと俺の支えになろうとしてくれていたなって思い出すことができた」
遠くを見つめていた環さんがふっと私へ視線を移動させる。そして微笑みながら、指先で私の頬を伝い落ちていく涙を拭ってくれた。
「後継者が亡くなって病院も大変だったはずなのに俺にまで振り回されて、それでも祖父さんは辛い顔ひとつしなかったんだ。そんな祖父さんに俺は救ってもらったけれど、祖父さんには辛い我慢をたくさんさせてしまったと思う」
自分を責める声音が切なくて胸が苦しくなる。励ましたいのに言葉を見つけられなくて、もどかしさだけが募っていく。
「だから俺はこれから祖父さんに幸せを返していこうって決めたんだ。祖父さんの望む幸せを」
彼がなぜ、顔も見たくないはずの私との食事の席に来たのか。私との話をきっぱり断らなかったのか。
その理由が今やっとわかった。
私と会うことで銀之助さんが喜ぶだろうことが分かっていたから。