俺様外科医と偽装結婚いたします

彼なりの恩返しだったんだ。

環さんの言う通り、銀之助さんは大変だったと思う。けれどそれは環さんだって同じだ。子供の頃からずっと悲しみのどん底にいたのだから。

けれど、前を向いて立ち上がって歩き出すことができた環さんはとっても強い人だ。

冷たい表情の下にすべての感情を隠せてしまうほどに悲しいくらい強い人。

私は両腕を目一杯伸ばして、環さんを抱きしめた。


「寂しくなった時はいつでも呼んで。環さんのとなりでずっと賑やかにしてるから。楽しかったことや悲しかったことをたくさん話すから、耳を傾けていて。たまにバカだなって笑ってくれたら、私も一緒に笑うから」

「……咲良」


せつなさがこみ上げてきて、自然と彼を抱きしめる力が強まっていく。


「重い話をして悪かったな。誰にも言わずにいたことなのに、気がついたら咲良に全部話してた」


言い終えるか終えないかのところで、環さんがコホンと咳をした。


「ご、ごめん。苦しいよね」


私の力が強すぎたことが原因だとすぐに気がついて、慌てて腕の力を抜く。

そのまま身体を離そうとした瞬間、環さんに腰元を引き寄せられて私は再び彼に抱きついてしまった。

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