俺様外科医と偽装結婚いたします
「菫さん!」
箒を手にしたお祖母ちゃんとシャツにジーパンというラフな格好の菫さんが、ほぼ同時に私の方へと顔を向ける。
「咲良、お帰り!」
菫さんというゴールまで突っ走る。荒い息を繰り返しながら、差し出された手にタッチした。
「ただいま……菫さんは今帰り?」
仕事を終えての帰り道なのかと思い聞いたけれど、「ううん」と首を横に振られてしまった。
遠目からお祖母ちゃんと真剣な顔で話をしているのが見えていたため、こんな朝早くにどのような用事があってここにきたのかと不安を覚える。
「どうしたの? 何かあった?」
「え? ……あぁ、えっと。モーニングを食べに」
言いながら菫さんはコスモスを指差し、途端にしまったという顔をする。
当たり前だ。うちの開店時間は午前九時なので、それまであと二時間もある。
こんなに早く来ても開いていないことくらい菫さんだってわかっているはずだ。
不審に思い目を細めてじっと見つめていると、菫さんが降参するように軽く両手を上げてみせた。
「気になって仕方がないから来ちゃったのよ」
「気になるって、何が?」
「昨日のこと。院長のパーティー、久郷先生に同伴したんでしょ? 昨日職場では、久郷先生が婚約者を連れて行くらしいって大騒ぎだったんだから」