俺様外科医と偽装結婚いたします
気恥ずかしさから答えるのをためらってしまったけれど、菫さん相手なのに隠す必要もないかという考えに至って私は小さく頷いた。
「やっぱり! あの久郷先生を射止めた相手はどんな人だろうって、みんな気になってるよ」
私のことが知られたら、興味本位でコスモスに来店する人も出てくるかもしれない。お店が繁盛するのは嬉しいけれど、仕事がし辛くなるのは嫌だ。
それに私たちの関係には事情もある。
いつまで一緒にいるのかわからないのに、下手に話が広まってしまったら環さんだって迷惑に思うことだろう。
それは今だけのことじゃない。環さんに結婚したいと思う人がちゃんと現れた時、足を引っ張ることにもなり得るのだ。
結婚したい人……。それは私じゃないんだと思うとちくりと胸が痛み、気持ちが沈んでいく。
俯いてしまった私の肩に、菫さんが手を回してきた。
「大丈夫。みんなに咲良のことは話してないから」
「……うん。ありがとう」
口元に笑みを浮かべると、菫さんはホッとしたような表情をしてから私と同じように微笑んだ。
「船上パーティー、楽しかった?」
「えぇ。まぁ、はい。楽しかったです」