俺様外科医と偽装結婚いたします

楽しくなかったわけではない。環さんとのキスや、成木さんのことが一気に頭に浮かんできて複雑な心境になってしまったのだ。


「どうだったかを聞いても咲良は昨日からこんな調子なんだよ。せっかく誘ってもらったっていうのに、つまらない顔をして銀之助さんを困らせていなければいいけど」


ため息混じりにお祖母ちゃんが口を挟んできた。


「だから楽しかったんだってば。つまらない顔なんてするわけないじゃない」


しかめっ面で言い返した時、店の前に軽ワゴン車が停車した。うちに毎日食材を届けてもらっている取引先の車だ。

私の言葉など信じられないとでも言うようにお祖母ちゃんは片方の眉毛をぴくりと動かしてから、手にしていた箒で地面を掃きつつ車へとつま先を向けた。


「クルージング羨ましい! 私も誘って欲しかった!」

「それは私じゃなくて銀之助さんに言ってください!」


菫さんが私の肩に額を押し付けて可愛く駄々をこねてきたため、ほんの少しリズミカルな口調で要求を突っぱねた。


「ねぇ。久郷先生とずっと一緒だったんでしょ? そっちはどうなの? キスはした?」


車から降りてきた運転手と話していたお祖母ちゃんが、ちらりとうかがうようにこちらを見た。

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