俺様外科医と偽装結婚いたします

その様子から、昨日のことを気にしているのは菫さんだけじゃないということを知る。

とは言え、菫さんはともかくお祖母ちゃんに聞かれるのは気恥ずかしくて、自然と声が小さくなった。


「ちょっとやめてよ」

「いいじゃない、結婚前提の付き合いなんだから。照れない照れない」


肩に回された菫さんの手に再び引寄せられる。

ニヤニヤしながら私の頬を突っついてきた細い指先を何度も押し返していると、徐々に菫さんから笑みが消えていった。


「それにしても……最初はあんまり乗り気じゃないみたいだったのに、何が決め手だったの? 久郷先生の顔が好みだった? 一目惚れ?」

「え!? ……う、うん。実はそうなの。一目惚れって本当にあるんだね」


あははと笑って見せると、菫さんが「なるほどね」と納得の声音で頷いた。そのことに私はこっそりと息を吐く。

初対面の時に顔が良いなとは確かに思ったけれど、それは一目惚れに当てはまらない。

けれど否定するよりは一目惚れということにしておいた方が都合がいいような気がして思い切って出まかせの言葉を並べてみたのだが、菫さんは信じてくれたようだった。

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