俺様外科医と偽装結婚いたします
「そうね。それだけじゃないよね。彼はいずれ加見里病院のトップになる人だもんね」
菫さんの口から出てきた言葉に思わず耳を疑う。
まるで私が彼と付き合っている理由はそれだと決めつけるような言い方だった。
戸惑いが膨らむ一方、言葉は違えど成木さんと同じような目線で私を見ていたのかとショックも受けた。
考え込むように視線を足元へ向けていた菫さんが、勢いよく顔を上げて私をじっと見つめてきた。
「咲良の一目惚れはわかったけど、久郷先生はどうなの? お互いにしっかり思い合っているんだよね? 久郷先生からもちゃんと好きって言われているんだよね?」
鋭い指摘にぎくりとさせられる。
環さんの私に対する気持はわからない。
キスをしたからといって、彼が私と同じ熱を持ってくれているなんて己惚れることはできない。わかっているのはせいぜい嫌われていないということくらい。
言葉を失い呆然としてしまった私に対して、菫さんが口元を強張らせた。
「ちょっと……大丈夫なの?」
「も、もちろんだよ。環さんってね案外優しいところもあってね。なんていうのかな……そう! やっぱり銀之助さんの孫だなって時々実感させられるっていうか」