俺様外科医と偽装結婚いたします

走り寄ってきた菫さんの姿を見て、午前中の配達の時に目にした光景がちらつく。

ほんの一瞬動きを止めてしまったけれど、すぐに複雑な感情を笑顔の裏に隠した。


「菫さん、いいところに! 私、実は銀之助さんに呼ばれてて、院長室まで案内してもらえたら助かるんだけど……やっぱり、忙しいよね?」


先ほどの電話では銀之助さんの口から“話したい事”についての詳細は語られなかった。

代わりに「午後四時くらいに院長室にきてもらえないだろうか?」と言われたのだ。そこでふたりで話がしたいとも。

コスモスが忙しくなるのは午後五時を過ぎたあたりくらいから。それまでに帰って来られるならと私は受話器を手にしたままその場でこくりと頷いたのだった。

了承しこうしてやってきたものの院長室がどこにあるかわからないため、総合受付で尋ねるのが正解だろうかと不安になっていたところである。

お願いしてみたけれど、加見里病院の診療時間は四時半までで、菫さんも仕事中のはずだ。

うかがうように顔を見つめると、菫さんが柔らかく微笑みかけてきた。


「もちろん。だって私、咲良を迎えに来たんだもん」

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