俺様外科医と偽装結婚いたします
秘密を打ち明けるようにこっそりと囁きかけられ言葉に、顔がこわばっていく。
「こっちよ。ついてきて」
「……う、うん。ありがとう」
加見里病院は地下一階から地上五階まであるこの近辺でも屈指の大きさを誇る大病院だ。
総合受付や清潔感のある広い待ち合いロービー、小さな売店などにまで目を向けつつも、白衣のポケットに手を入れた格好で颯爽と進んでいく菫さんを足早に追いかけた。
時折すれ違う医療従事者らしき人たちと軽く挨拶をかわしながら長いエスカレーターに乗ると、菫さんは後ろにいる私へと笑顔で振り返った。
「院長室は三階だよ」
頷いてエスカレーターの手すりに手を乗せてから、私は院内へと視線を走らせた。
時間も時間だから患者はまばらな印象で、代わって足早に歩いていく医師や看護師の姿が多く目についた。
男性の姿を見て取ると、自然と環さんではと確認している自分がいる。
嬉しい偶然に期待していることに苦笑して視線を前に向けると、菫さんと目が合いドキリとした。
先ほどまでの朗らかな笑みが消えていたからだ。
「……菫さん?」
不安になって呼びかけると、今度は動揺したように私から顔をそらした。