俺様外科医と偽装結婚いたします
ムッと顔をしかめた環さんにちらりと目を向け、銀之助さんはまた嬉しそうに表情を崩す。
「両親が亡くなってから、環はずっと抜け殻の状態だった。それでも私は、可愛い孫が生きてくれているだけで良かったんだ。そんな環が懸命に人生を歩み始めた時はとても嬉しかったよ。それがたとえ、私の期待に盲目的に応えようとしているだけであってもね」
環さんの手がぴくりと動いた。
昨日の会話で薄々は分かっていたかもしれないけど、自分の想いがすべてお見通しだったことがはっきりと告げられたことで、さすがの環さんも動揺したようだった。
「前回のお見合いの話を受けたあと、偶然相手方の女性と一緒に食事をしている環を見かけてね。相手のお嬢さんがえらく環を気に入ってくれていたし、環も受け入れている様子だったから、きっとうまくいくだろうと私は思い込んでいたんだ。……正直ショックだったよ」
銀之助さんはどこか遠い目をしながら、記憶の中にある光景を言葉にしていく。私の中にも環さんから昔話を聞いたあの時の切なさが蘇ってきて、苦しくなった。
「環の精気のない顔は、私にはすべてを諦めてしまっているようにしか見えなかった。環にはもうこれ以上辛い思いなどさせたくなかったのに、自分の存在が諦めを生じさせてしまっているんじゃないかと目の前が真っ暗になってしまった」