俺様外科医と偽装結婚いたします
マンションから出てきたふたりの姿、まさに今私が座っているこの座席に菫さんが乗り込む光景、遠ざかっていく車。
それらの残影がはっきり心の中に残っていて、湧き上がる不安が自信の妨げとなっている。
菫さんとどういう関係なの?
その一言で環さんを失うことになってしまったらと思うと怖くてたまらない。
「寄っていく」
車のウインカー音が響いた。左折した車が駐車場へと入ったのを感じて、私は窓の外に目を向ける。
ロッジ風の外装のこじんまりとしたお店から柔らかな明かりが漏れている。
「……このお店、知ってる!」
このまま帰宅するものだとばかり思っていたため突然の寄り道に驚いたけれど、モンブランケーキで有名なお店だと分かるとテンションが上がる。
「ここね、雑誌によく取り上げられてるお店で。いつか行きたいねって菫さんとも話していたの」
菫さんの名前を口にしたことで、思わず「あっ」と声が出た。
戸惑うように瞳を揺らすと、駐車を終えた環さんがハンドルに手を乗せたまま私へと顔を向けた。
「岩坪先生との話は、祖父さんも本気で言ったわけじゃないから気にするな」
「……気になるよ。環さんと菫さんのこと」