俺様外科医と偽装結婚いたします

忘れたい光景がまた頭の中に蘇ってくる。

菫さんと川元さんが恋人だとわかったけれど、だったらあれはどういうことなのかと新たな疑問が生まれた。

眉根を寄せて首を傾げてから、菫さんがかすかに首を横に振った。


「久郷先生の車に乗ったことなんて……あった。私が久郷先生に咲良をどう思っているのかって、ちゃんと好きなのかどうか問い詰めた時だ。久郷先生にのらりくらりとはぐらかされたことに腹が立って、こうなったら病院に着くまで尋問してやるって車に乗り込んじゃったんだよね」

「あの時か……かなり迷惑だったから、最初の信号で車を降りてもらったっけ」

「えぇ。初めて殺意を覚えた瞬間だったわ」


環さんのひと言に顔を歪めて再び頭を抱えた菫さんの背中を川元さんがポンポンと優しく叩いた。


「でもまさか見られてたなんて。私が浅はかすぎた……咲良、本当にごめんね」

「ちなみに菫と一緒に暮らしてるのはこの俺だから。安心してね」


ふたりから気を遣われて苦笑いを浮かべるしかない私の横で、環さんが眉間にシワを寄せつつそっと指先でこめかみを揉む。


「咲良にはまだ言ってなかったな。確かに俺もこいつらと同じマンションに住んでるけど、無関係だから」

「そうなんだよ! 本当に無関係を貫かれてる。何度誘っても環は俺たちの部屋に来ない。たった一度もね」


< 205 / 209 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop