俺様外科医と偽装結婚いたします
走り寄ってくる足音にぴくりと肩が跳ねた。
そこにいる男性が環さん。私がこれからお見合いをする相手。そう考えると否が応でも鼓動が高鳴っていく。
私は近づいてくる気配へと徐々に顔を向け……見えた姿に、短く悲鳴を上げた。
「祖父さん、何やってんだよ」
「すまんな環」
「まったく……腰、大丈夫か?」
銀之助さんの目の前で立ち止まった男性は、私をストーカー扱いしたあいつだった。まさかの正体に呆然としてしまう。
「すみません」
彼が私を見た。ほんの一瞬だけでも目を合わせてしまったことに苦い気持ちになりながらも、私は大慌てで彼から視線をそらす。
「祖父が大変ご迷惑をおかけしま……」
恭しく述べられていたお礼の言葉が、途中で不自然に途切れてしまった。
嫌な予感と共に俯いていた顔を上げると、とてつもなく恐い顔が視界に入ってきて、私は身体を震わせながら再び視線を膝へと落とした。
「環、手を貸しなさい」と銀之助さんに言われ、彼の足が大きく一歩前へと出た。
銀之助さんはベンチから立ち上がると、環さんの肩を借りてゆっくりと車に向かって歩き出した。
数秒後、私も静かにベンチから腰を浮かす。