フェイク☆マリッジ 〜ただいまセレブな街で偽装結婚しています!〜 【Berry’s Cafe Edition】

「……父が……あなたに何の用があって……」

わたしは絶句した。

——なぜ、わたしが風間と付き合っていたことをパパが知ってるの……?

彼とのことは本当にだれにも言ってなくて、長澤 典士(テンシ)だって知らないくらいなのに……


「さすが大会社の社長だよな。
調査会社でも使って調べたのか、突然おまえの親父さんからおれの私用(プラベ)の携番にかかってきてさ。
閑静な住宅街の中にある昔ながらの洋食屋に来るように言われた」

——そのお店は……

祖父母の代から家族で通っている、老舗の洋食屋だった。

わたしも兄も、両親に連れられてよちよち歩きの頃から通っている大好きなお店だ。

「懐かしいカウベルの音がするドアを開ければ上品な女主人(マダム)が出迎えてくれて、二階の個室へ案内されたら……すでにおまえの親父さんがテーブルに着いていた」

個室だと幼かったわたしたちがはしゃいだり粗相をしたりしても、ほかのお客さんの迷惑になりにくいから、わたしたち家族はいつも二階の奥の個室を予約(リザーブ)していた。

「『ここだったら、ハイエナのような写真週刊誌どもにも嗅ぎつかれないからな』と親父さんが言って、その店の名物だというタンシチューをご馳走になった」

確かに、祖父母たちが通っていた頃の先代から代替わりしたとは言え、息子夫婦である今の店主(オーナーシェフ)夫妻もまた信頼のおける人たちだった。

——そんなことよりも、タンシチューっ!
あれは、もう、めちゃくちゃ美味(おい)しいのよっ‼︎

「あんなに旨くて優しい味のタンシチューは……あれから国内海外問わずいろいろ美味(うま)いもんを食ってきたけど、他にはないな」

彼は遠い目をしてその味を思い浮かべていた。

——ダメだ……

幼い頃から親しんだ条件反射(パブロフの犬)で、わたしの口がたちまちタンシチューになった。

——近々、予約取って行かなくちゃ!

「何を言われるのか戦々恐々として身構えていたら、親父さんから『君はM大の商学部を()えているんだったな』と尋ねられて、戸惑いながら『そうですが』と答えたら……」

——はぁ?

パパは彼になに訊いてんの?


「『君が私の娘——レイカと結婚を前提にして真剣に交際しているのを知っている。
私たち両親がその結婚を許すためには、君に次代の江戸屋を継いでもらわなければならない。
私もレイカの母親と結婚する際に佐久間家へ婿養子に入って、その後江戸屋を継いだ。
君には『佐久間』の姓を継げ、とまでは言わないがな』」

さすが俳優だけあって、その口調は父そのものであった。

彼がわたしの父と会っていたというのが本当だと実感した。


「『君に……レイカとの結婚のため、今の芸能界の仕事をすっぱりと引退()めて、江戸屋(うち)へ入社する覚悟はあるか?』」
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